意外と知らない労災のお話

今回は、「意外と知らない労災のお話」というテーマで3つのお話をさせていただこうと思います。いざという時に備えて、参考にしていただければ幸いです。

1)労災と健康保険

仕事中や通勤中の怪我や病気、つまり「労災の対象となる場合」に健康保険を使ってはいけないことはご存知でしょうか?

「そんなことは知っている」と思われるかもしれませんが、病院を受診する際、つい健康保険証を提示してしまうクセがついていて、うっかり健康保険で受診してしまう方もいらっしゃいます。

(病院側が労災であると気付けば助言してくれる場合もありますが…)

なぜ、労災を健康保険で受診してはいけないのでしょうか?それは運営母体、つまり「お金の出所が違うから」です。健康保険組合にしてみれば、「本来労災側で負担すべきお金を何で我々が負担しなければならないのか」と思うのは当然ですよね。

ここで、労災と健康保険の違いを簡単にご紹介します。

労災保険健康保険
運営母体全国健康保険協会または

健康保険組合・国民健康保険

対象となるもの仕事中や通勤中の怪我・病気等労災対象となるものを除く怪我や病気等
申請先労働基準監督署加入先の健保
自己負担なし

(通災の一部負担金を除く)

あり

(原則3割負担 ※例外あり)

その他申請しても絶対に認められるとは限らない(労災認定されなかった場合は健保に切替可能)

 

それでは、間違えて健康保険で受診してしまった場合はどうすれば良いのでしょうか?

1.まずは病院に連絡して労災に切り替え可能か確認する

受診後あまり時間が経っていなければ、病院側で健保から労災への切り替えが可能な場合があります。これが最も楽な方法です。病院側の指示にしたがって手続きを進めましょう。

2.病院側で対応不可能だった場合

①まず、健康保険組合に保険者負担の「7割部分」の金額を返金し、「全額(10割)自己負担の状態」にします。(返金方法は加入先の健保にお問い合わせください。)

②健保に返金した後に送られてくる書類等を添付して労働基準監督署に労災申請しましょう。

(詳しくは勤務先管轄の労働基準監督署労災課にお問い合わせください。)

この方法は時間も手間もかかるので、最初に誤って健保を使用してしまったことを悔やむことになります。

 

▼厚生労働省のリーフレットに分かりやすくまとめられています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000163986.pdf

 

2)「労災隠し」の本当の意味

「労災隠しだなんてとんでもない!うちの会社はきちんと労災申請しているぞ!」という会社でも、うっかり「労災隠し」をしてしまっている場合があります。

誤解の多い点なのですが、「労災隠し」とは、労災の各種給付(治療費や休業補償等)申請しないことではなく、『死傷病報告を提出しないこと』を指しています。

(労働安全衛生法 第100条、労働安全衛生規則 第97条)

よって、給付関係の申請だけ行って死傷病報告を提出し忘れてしまうと、それは「労災隠し」になってしまいます。(50万円以下の罰金という罰則もございます)

「死傷病報告」は、業務中の災害により死亡又は休業したときに安全衛生課に提出するもので、労災課に行う給付等の申請とは全く別のものですのでご注意ください。なお、休業0日だった場合は提出不要です。(休業4日未満か、4日以上かで書式も分かれています)

 

3)業務災害時に会社が行う補償

労災事故が発生した時に、「労災で補償されるから、会社から補償を行う必要はない」と思ったら大間違いです。休業補償給付は「休業4日目」からしか支給されませんので、「休業開始から3日間」の休業補償は会社が行わなければなりません。

法的なご説明をしますと、そもそも業務災害に対しては、労基法76条にて「会社が補償しなければならない」と定められています。そして労基法84条で「労災から給付がある場合は(76条の義務が)免責される」と定められています。この二つの条文を合わせた結果、「最初の3日間は会社が休業補償し、4日目以降は労災から給付される」となる訳です。

支給額は「平均賃金の60%以上」で、この3日間に公休日が含まれていてもキッチリ3日分支払う必要があります。この休業補償は「社会保険料、労働保険料、所得税等の対象外」という特徴もありますのでご注意ください。

なお、もし本人が「満額支払われないなら有給休暇で処理したい」というのであれば、実務上、(公休日以外は)有給休暇としても問題ありませんが、会社が勝手に有給休暇で処理することはできません。

 

以上が、私が考える「意外と知らない労災のお話」です。頻繁に起こるものではないので、いざ発生した際に「あれ?どうすればいいんだっけ?」となってしまいがちですが、会社としての責任をキッチリ果たすために、有事の際の対応はあらかじめマニュアル化しておくと安心ですね。

 

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