「労使協定」という言葉をご存知でしょうか?
「労使協定」とは、使用者(会社等)と労働者の過半数代表(または過半数労組)でかわす書面による協定(約束事)のことをいいます。社内のルールブックと言えば「就業規則」ですが、「就業規則」に定めただけでは効力がなく、労使協定を締結して(※)初めて効果が発生するものもあり、非常に重要なものです。
(※種類によっては、労働基準監督署に届出することで効力が発生するものもあります。こちらは後述します)
目次
1)労使協定の種類
「労使協定」という単語がピンとこない方でも、「36(サブロク)協定」ならば聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。「36協定」は労使協定の一種であり、法定労働時間を超えて(または法定休日に)働かせる場合に必要となります。
「36協定」以外にも、労働基準法(以下、「労基法」)には様々な「労使協定」が定められています。先述のとおり、労働基準監督署への提出の必要性も併せてご紹介します。
(出典:厚生労働省「労働関係法のポイント」)
上記の表の通り、労基法だけでも14種類あります。他の法律で定められているものもありますが、ここでは割愛致します。
上記の中で、よくあるトラブルとしましては、②賃金控除の労使協定です。
労基法24条第一項では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、(中略)法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」と定められています。
簡単に言いますと「賃金は勝手に控除してはダメ。法律で定められている場合か、労使協定で定めている場合はOK」ということです。
前者の「法律で定められている場合」とは、税金や社会保険料を指します。これらは労使協定がなくても控除して良いものですが、これ以外のものは正当な理由があっても労使協定なしに控除したら労基法24条違反なります。
例えば社内の親睦会に加入したので、親睦会費を賃金から控除する場合や、社宅に住んでいるので、その使用料を控除する場合も、労使協定がない場合は、一旦全額給与を支払った上で、その後本人から徴収するのが正しい方法となります。しかしそれでは事務が煩雑になりますから、労使協定を締結して、適法に賃金控除できるようにするのが良いでしょう。
2)労働者代表の選出方法
社内に過半数労組がない場合は、事業場ごとに労働者代表を1名(過半数の賛成により)選出して、協定書に署名していただく必要があります。しかし、この選出方法に問題があるケースがとても多いです。
よくあるNGケースは以下の3つです。
①管理職が労働者代表になっている
②労働者代表選出の目的を明示せず選出している
③労働者代表を社長が指名している
労基法施行規則第6条の2には以下のように定められています。
「過半数代表者」は、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。
NGケースの3つがこの施行規則に違反していることは明白だと思います。
(出典:厚生労働省「労働関係法のポイント」)
3)労使協定にまつわるトラブル事例
もし、労使協定が締結されていなかった、または締結されていても労働者代表の選出方法に不備があり無効だった場合、どうなってしまうのでしょうか?
第一には、労働基準監督署の指導対象となり、最悪送検される場合もあります。また、企業名が公表される場合もありますので、そうなれば会社の社会的信用に大きな打撃を与えるでしょう。
さらにトラブルが裁判になった場合、労使協定の不備は会社に不利に判断されます。有名な判例として「トーコロ事件(最高裁平成13年6月22日)」があります。この事件は、労働者が残業命令を拒否したことにより解雇され、その有効性を争ったものです。しかしこの会社は、36協定の労働者代表について、(本来その都度選出すべきところ)当時の社内親睦会の代表をそのまま自動的に労働者代表にしていました。この選出方法が無効であるとして、この36協定を根拠とした残業命令も無効であるから、解雇無効という判決が出ました。(会社側敗訴)
このように、協定の有効性は非常に重要なので、軽視せずしっかり法定の手順を守るようにしましょう。ご不明な点は、専門家または管轄の労働基準監督署にお問い合わせください。
協力 社会保険労務士