前回、「持ち帰り残業」は労働時間か?というテーマで書かせていただきました。今回はその派生で、その他のあらゆる「これって労働時間なの?」を解説していきたいと思います。
前回の記事の冒頭にある【1)そもそも「労働時間」とは】をお読みいただいてから、以下を読み進めていただくことをオススメしますが、念のため、労働時間の定義だけ再掲致します。
(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)
<労働時間か否かが問題になりやすいケース>
1)直行直帰の移動時間
2)着替え時間
3)会社のイベントや飲み会、教育訓練の時間
4)業務の都合で待たされている時間
5)乗り合わせのため一度会社に集合してからの目的地までの移動時間
6)お昼休憩中の来客対応当番(来客がなかった場合)
順番に見ていきましょう。
1)直行直帰の移動時間
原則として、往復の移動時間は労働時間にはなりません。通達でも「移動時間中に物品の監視等の特定の用務を使用者から命じられている場合のほかは労働時間ではない」(昭和23年3月17日基発461号)と示されています。例え、遠方のため前日(休日)に前乗りで移動する場合も、休日労働にはなりません。海外出張でも考え方は変わりません。
移動時間は基本的には何をしても自由であり、寝ていても良いし、スマホでゲームをしていても良いので、これを労働時間と主張するのは難しいでしょう。但し、移動中に資料の作成を命じられている等、特命がある場合は労働時間となりますので注意が必要です。
とはいえ、特に遠方に行く場合に「こんなに長い時間移動しているのに労働時間じゃないなんて納得いかない!」という労働者側のご意見も非常に理解できます。よって、会社としては(法的に義務ではないとしても)出張手当等によりその負担に対して対価を支払うことも検討してみましょう。
2)着替え時間
使用者から義務付けられた作業服や保護具の着脱等に要した時間は、最高裁判例で労働時間であると認定されています。(三菱重工長崎造船所事件:最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決)
但し、着替えの場所が指定されておらず、家から着用して出勤することも許可されている場合等は、必ずしも労働時間になるとは限りません。
3)会社のイベントや飲み会、教育訓練の時間
これらは、「実質的に見て出席の強制があるか否か」により判断することになります。自由参加であり、参加しなかったとしても懲戒処分等の不利益な処分を受けないのであれば、労働時間とする必要はありません。
とはいえ、「自由参加と言われても、雰囲気的に参加しない訳にはいかないよ」という労働者側の嘆きが聞こえてきますので、飲み会や旅行はともかく、教育訓練(特に業務に直結するもの)の時間は労働時間とするのが望ましいでしょう。
4)業務の都合で待たされている時間
例えば、約束の時間にお客様を訪問したら、先方の都合で「1時間後に変更して」と言われた等、本人に責任のないことでポッカリ時間が空いてしまった場合、これは労働時間になるのでしょうか?こちらは、この空き時間が「手待ち時間」か「休憩時間」のどちらに当たるかで判断が分かれます。
「手待ち時間」とは、作業中ではないものの、指示があればすぐに従事できるよう待機している時間をいい、労働時間に該当します。比べて「休憩時間」は、その時間は完全に使用者の指揮命令下から離れて自由に過ごせる時間ですので、労働時間には該当しません。待たされている時間が実態としてどちらに該当するのかにより、ケースバイケースで判断する必要があります。
5)乗り合わせのため一度会社に集合してからの目的地までの移動時間
会社が、乗り合いのうえ現場に向かうことを義務付けているならば、集合してからの移動時間は労働時間になりますが、各々直行直帰することが認められているにもかかわらず労働者同士の自由意思で乗り合わせて行っているならば労働時間になりません。ただ複数人が集合して一緒に通勤しているだけといえるでしょう。
6)お昼休憩中の来客対応当番(来客がなかった場合)
お昼休憩中の当番は、先述の「手待ち時間」と同様に、来客があればすぐに対応しなければならない状態なので、例え結果的にその日に来客がなくても労働時間となります。当然ですが、休憩時間に当たらないので、別途法定の休憩時間を付与する必要があります。
労働時間か否かについて争いの多い6つのケースについてご説明しました。他にも様々なケースがあると思いますが、基本的には「使用者の指揮命令下にあると言えるか」「労働者が自由に利用できる時間か」という視点でお考えいただくと判断しやすいと思います。
ただ、先にも少し触れましたが、法的に労働時間としなくても良い時間であっても、それなりに労働者に負荷がかかるものについては、何らかの手当等で、その労力について金銭的に報いてあげると良いのではないかと思います。法の定めや通達は、あくまで最低ラインです。それらを理解した上で、御社独自の「イキイキと働ける環境づくり」を目指しましょう!
協力 社会保険労務士