突然ですが、賃金のお支払いはどのような方法で行われていますか?
おそらく、ほとんどの方が「銀行口座への振り込み」とお答えになるのではないでしょうか?しかし実は、この一般的に行われている「給与の銀行口座への振り込みによる支払い」は、一定の要件を満たさないと認められない【例外】なんです。
給与の支払い方法には、以下の5つのルールがあります。
<賃金支払の五原則>(労働基準法第24条)
① 通貨払い | 現金(日本円)で支払うこと |
② 直接払い | 本人に直接支払うこと |
③ 全額払い | 何も控除せず全額支払うこと |
④ 毎月1回以上払い | 1ヵ月に1回以上支払うこと |
⑤ 一定期日払い | 決められた一定期日に支払うこと |
なぜこのようなルールがあるのか、その趣旨を知ることで、より理解が深まると思いますのでご説明いたします。さらに、これらの原則には例外もありますので、併せてご紹介します。
目次
① 通貨払い
もし給与が「外国の通貨で支払われたら?」「米俵や肉・野菜等の現物支給の形で行われたら?」とっても困ってしまいますよね。なぜなら、それを元に他の欲しい商品と交換することが困難だからです。そこで、貨幣経済の支配する社会において最も有利な交換手段である通貨による賃金支払が義務付けられているのです。銀行振り込みなら問題なさそうに感じますが、銀行だって倒産することもありますし、預金封鎖だって絶対にないとは言い切れません。決して、銀行振り込みと現金手渡しは完全にイコールではないのです。
<例外>
★銀行口座へのお振込み:「労使協定の締結」と「本人の書面による同意」があれば認められます。
★現物支給:「労働組合との労働協約の締結」が必要です。よって、労働組合のない会社は、現物支給をすることはできません。
② 直接払い
「本人と家計が同一である配偶者や、未成年労働者の親御さんに支払うのは良いんじゃないの?」という意見も聞きますが、これもダメです。必ず本人に支払わなければなりません。本人による委任状があってもダメです。代わりに支払った配偶者や親御さんと本人の関係が悪化し、急に失踪してしまう可能性だってありますよね。そう考えると、分かりやすいかと思います。
<例外>
★使者への支払い:本人が病気で賃金を受領できない等、特別な事情がある場合に「ただの使者」として本人から依頼を受けて受け取りに来た者に支払うことは良いとされています。但し、口座振り込みが主流となった現代ではあまりないことかもしれません。
③ 全額払い
会社が給与からあらゆるものを給与から控除して支払うことが認められると、労働者は「思ったより手取りが少ない」という事態が発生し、日々の支払いに困る等の不利益を被ります。よって、賃金支払日には賃金を全額支払う必要があります。もし正当な理由があって(例えば寮費等)労働者から徴収したいものがあるならば、一旦全額支払ってから、その後に本人から徴収するのが原則です。
<例外>
★法令に別段の定めがあるものは控除可能(税金や社会保険料等)
★賃金控除の労使協定を締結すれば、そこに記載された項目についての控除は可能。
(労使協定があれば個別の同意までは不要)
④ 毎月1回以上払い
「年に一度だけ、300万円支払われる」と「毎月25万円支払われる」では、年間で見れば支払額は同一です。しかし前者は違法となってしまいます。例え本人の同意があっても認められません。
<例外>
★賞与や臨時の賃金、1ヶ月を超える査定期間で支給される手当等は除外されます。
⑤ 一定期日払い
「今月は1日に支払うが、来月は末日に支払う」等のように、支払日が不安定だと労働者の計画的生活が困難となってしまうので、「毎月1日に支給」というように、支払日を固定しなければなりません。なお、「毎月第三水曜日」というように、曜日で定めることも認められておらず(支払日が7日の範囲で変動することになるため)、日付で確定させる必要があります。但し、「末日」という定め方は問題ありません。
<例外>
④と同じ
この「賃金支払の五原則」のうち「① 通貨払い」に関するもので、興味深い動きがあります。それは、『給与のデジタル払い解禁が検討されている』というものです。
「給与のデジタル払い」とは、例えば「〇〇ペイ」というような電子マネーで給与を支払うということです。
これは、政府の目指すキャッシュレス化の推進や外国人労働者の受け入れ増加を見越して利便性を向上させること等を目的としていますが、安全性の確保等の問題点もあるため、まだ実現には至っていません。外国では既に導入されている国もあるため、日本でもいずれ解禁されるだろうと思われます。
協力 社会保険労務士